Dreaming Is Living

LA在住の音楽ライターが夢実現のヒントを綴ります

ニッキー・ミナージュ

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先週、テイラー・スウィフトツイッターでニッキー・ミナージュに対して謝罪をし、ちょっとしたニュースになりました。

そもそもの発端は、2015年MTVヴィデオ・ミュージック・アウォードの最も重要な賞である“ヴィデオ・オブ・ザ・イヤー”にノミネートされなかったニッキー・ミナージュが、「なんでアナコンダが“ヴィデオ・オブ・ザ・イヤー”にノミネートされないんだ!」という数々のファンの怒りのツイートに対する返答として、
「私が違う“種類”のアーティストだったら、アナコンダはベスト・コリオグラフ(振り付け)とヴィデオ・オブ・ザ・イヤーにもノミネートされてたはずよ」
「とてもスリムな女性を称賛するようなヴィデオだったら、“ヴィデオ・オブ・ザ・イヤー”にノミネートされるんでしょうね」
とツイートをしたことでした。

 “ヴィデオ・オブ・ザ・イヤー”にノミネートされたのは、テイラー・スウィフト(feat.ケンドリック・ラマー)「バッド・ブラッド」、ビヨンセ「7/11」、エド・シーラン「シンキング・アウト・ラウド」、マーク・ロンソン(feat.ブルーノ・マーズ)「アップタウン・ファンク」、ケンドリック・ラマー「オールライト」、の5作品。

 ニッキーのツイートを見た「スリムな女性」テイラーは、自分が攻撃されたものだと思いこみ、以下のツイートをしました。

「私はこれまでずっとあなたが大好きで、応援してきたわ。女同士で争うなんて、あなたらしくない。たぶん男性アーティストの誰かが、あなたノミネーションを奪ったんじゃないかしら」

 でもニッキーは、全くテイラーのことを言っていた訳ではなかったのです。彼女はただ、「アナコンダ」が、痩せている女性とは真逆の「超グラマーな女性」を称賛するビデオだったことを指摘しただけです。

 ニッキーはテイラーに返事をしました。
「え? あなた、私のツイートちゃんと読んでないわよ。私はあなたの名前なんて一言も出してない。あなたのことは大好きなのよ。でも、この件ははっきりさせてね」

 そして、これを読んだテイラーがニッキーに謝ったのです。
「私は自分が挑まれていると思ってしまったの。私は勘違いしてしまって、誤解してしまって、間違ったことを言ってしまったわ。ごめんなさい、ニッキー」
 これを受けて、「そう言ってくれてとても嬉しいわテイラー、ありがとう♡♡♡」とニッキーが再び返事をし、二人は和解しました。

 その翌日の7月24日(金)に、「グッド・モーニング・アメリカ」という朝のニュース番組で、ニューヨークのセントラル・パークにて無料ミニコンサートを行ったニッキーは、テイラーと電話で話をして完全に仲直りしたと語りました。

「私があのツイートをした理由は、インスタグラムにも載せたんだけど、過去に“ヴィデオ・オブ・ザ・イヤー”にノミネートされたヴィデオの傾向をチェックしたら、おかしなことが起こってることに気づいたからよ」

つまりニッキーは、これまでにこの賞を獲得したアーティスト達が、ニッキーとは違うタイプの「ポップ・アーティスト(ここには白人という意味も含まれていると思います)」である傾向があったことを伝えようとしていたのです。

「「アナコンダ」は私達の文化にすごく大きな影響を与えたし、それに、Vevoのヴィデオ再生回数記録を破ったのよ。だから“ヴィデオ・オブ・ザ・イヤー”にもノミネートされるべきだったと思う」

 これは本当で、「アナコンダ」が出たことで、去年アメリカでは「大きなお尻」がブームになったのです。メーガン・トレイナーの「オール・アバウト・ザット・ベース」が大ヒットしたのも、ニッキーがその下地を作ったからでした。その影響は音楽シーンにとどまらず、今年の春、「Lane Bryant」というプラスサイズ(標準よりも大きい体のこと)のブランドが、ランジェリーラインの新広告をプラスサイズのモデルのセミヌード写真と「私はエンジェルじゃない」というキャッチコピーを使って全国展開したりもしています。ニッキーの「アナコンダ」は、従来のスーパーモデル体型が一番美しいというアメリカ社会の歪んだ概念を一気に覆す社会現象を作ったのです。

「私はね、私達は(痩せている体と豊満な体の)両方の女性のイメージを表現するべきだと思うの。一方だけがもてはやされる社会はおかしいと思う。それによって、すでに自信がない女性達が、もっと自信をなくしてしまうわ」

アナコンダ」が“ヴィデオ・オブ・ザ・イヤー”にノミネートされなかったのは、個人的にはニッキーの体型とヴィデオの内容よりも、あまりにも卑猥すぎる歌詞(「俺のアナコンダ(訳は書けないので想像してね)はデカ尻じゃなきゃやりたくねー」という男性の声で始まり、ニッキーもFuxkやBitxhを連発!)にあったのだろうと推測していますが、それでもこの曲が社会に与えた多大な影響を考えると、“女性ヴィデオ・オブ・ザ・イヤー”と“ヒップ・ホップ・ヴィデオ・オブ・ザ・イヤー”の2部門のノミネートだけでは、過小評価だと私も思います。


Nicki Minaj - Anaconda - YouTube


ニッキー・ミナージュの夢は、何だと思いますか? 
ニッキーが、あるTVドキュメンタリー番組で宣言したことなのですが、こんな夢を語る女性アーティストを見たのは史上初でした。

「私は私の帝国(エンパイア)を築きたいの」

 帝国だよ! 世界一のラッパーになりたい、とかじゃなくて、帝国築いちゃうんですよ。このスケールの大きさ。野心の塊のようなコメント。素晴らしいです。 
「エンパイア」というのはブラックミュージックのアーティストが良く使う言葉で、同名のドラマが去年大ヒットしました。音楽ビジネスのみならず様々なビジネスを展開し、一つの国を築く位のビジネス王になるという意味です。それを達成したアーティストの筆頭が、ビヨンセの夫、ジェイ・Z。彼は現在ロック・ネイション、ロック・ネイション・スポーツ、スター・ロックのCEOとしてジェイ・Z帝国を築いています。

「男達がやれているのに、なんで女のあたしがやっちゃいけないの、あたしはやるわよ」

 現代は男女平等になったとか思っている人もいるかもしれないけれど、実情はまだまだ男性が女性よりも優遇されていて、ビジネスでもより成功しやすい状況にある。
その分かりやすい縮図がヒップホップ界で、ヒップホップは他の音楽ジャンルと比べると、いまだに非常に男社会。それはヒップホップという音楽が、攻撃的だったり、挑発的だったり、過剰に性的で時に下品だったりすることにも関係しているのだと思いますが、「なんでヒップホップは男のMCばっかりなのかなあ、リル・キムミッシー・エリオット以降、いい女性MCが出て来ないのはなんでだろう」と長年思っていたところ、2010年にいきなり登場したのがニッキー・ミナージュでした。

 女性ラッパーというポジションは大きな需要があっただけに、ニッキーはポップからR&Bまで様々なアーティストの曲でフィーチャーされまくり、それらの曲と自分自身のシングルが『ビルボード』の全米シングルチャートで同時に7曲ランクインされるという記録を作って、一気にトップクラスのアーティストに登り詰めました。当時のニッキーはピンクのカツラとガン黒ギャルのようなメイクがトレードマークで、ちょっとゲテモノ扱いされていた面もあったけれど、あれはセクシーさを売りにせずに男社会でのし上がって行くためのニッキーの戦略だったのだと思います。
 そして今、30代になった彼女は、完全にナチュラルメイクで、髪も服も黒で統一し、大人のセクシー路線に移行。3枚目となる新作『ピンクプリント』からは、全米シングルチャート2位の「アナコンダ」に続いて「オンリー(feat.ドレイク&リル・ウェイン)」、「ザ・ナイト・イズ・スティル・ヤング」、「フィール・マイセルフ(feat.ビヨンセ)」とシングルヒットを連発して絶好調。現在は全米アリーナ・ツアーに乗り出しています。彼女は音楽ビジネス以外にも、お酒(Myxモスカードリンク)や香水(新作ピンクプリントは9月発売)といったサイドビジネスを成功させ、映画女優としても活躍し、確実に「ニッキー帝国」を築きつつあります。

 男だけでなく何者も怖れないような圧倒的な強さを見せながらも、『ピンクプリント』では別れた男性を想う弱い面をさらけ出す切ない曲もこなしていて、ふとした時にみせる笑顔がすごくキュートで、女性として本当に本当に魅力的なニッキー・ミナージュ。私が今、誰よりも敬愛しているアーティストです。

 冒頭の写真は、6月末にステープルズ・センターで公演を行った時のもの。18000人の観客を総立ちで熱狂させ続ける最高のショウを披露してくれました。
 これまで2度の来日公演を行っているニッキー・ミナージュですが、ちゃんと曲を聴いたことがないという人も多いのではないでしょうか。
 ニッキー・ミナージュなしに現代の洋楽は語れないぐらい大きな存在なので、ぜひYoutubeで色々聴いてみて下さい。

 あまりに好きすぎて長い記事になってしまいましたが、読んで下さってありがとう。

Dreaming is Living!
Keep on dreaming!!